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「最後の事件」で、悪者と格闘の末、ライへンバッハの滝に墜落死したはずのホームズが、ぎゃあーとか言ってヒョッコリ帰ってきちゃうのである。
「死んだはずだよお富さん!」とは言わなかったが、ホームズの帰還にはワトスンもビックリ!少年Tもそりゃ驚いた。
ホームズの言い訳がふるっている。
「僕は日本のパリツを知っていたからね。
悪人を投げ飛ばして僕は助かったのさ」事実は彼の言葉と異なる。
コナン・ドイルはホームズ小説を書くのに飽きてしまい、ホームズを殺すことでシリーズを終結させようとしたのだ。
ところが読者が許さず、ホームズ奇跡の生還となったのである。
いかにもご都合主義な名探偵窮地脱出の真相は作者の投げやりにあったのだ。
それはさておき、ホームズが「知っていた」という「日本のパリツ」とは一体全体何だろう?コナン・ドイルが子供心にミステリーであった。
多分、「武術」あるいは「馬術」を、間違えて覚えてしまったのではないのか?と推理していたものだ。
それから初年の歳月が流れた。
ここ数年、プロレス、格闘技マニアの間では、グレーシー柔術の話題で持ち切りだ。
これはブラジルのグレーシー一族を中心とする格闘技で、何人もの日本人格闘家がこれに戦いを挑み、そのほとんどが返り討ちに遭っているのだ。
面白いことに、さらには皮肉なことに、グレーシー柔術の起源は日本人なのである。
明治時代に前田光世という武道家が海外に渡り、グレーシー一族に教えた技が発展して、今日のグレーシー柔術となったのだ。
グレーシー柔術では、極端にルールを減らした試合を行う。
これを「パーリ・トゥードゥ」と呼ぶ。
あっ!それってホームズの「パリツ」ではパーリ・トゥードゥという言葉の英国読み、あるいはコナン・ドイルの覚え違いで、「パリツ」と記してしまった。
という推理は、あまりに単純な発想というものであろうか?「パリツ」は現在でもホームズ研究家の間では議論の的だという。
果してTの仮説のその真偽やいかに?調査のため、僕はまた古書街へと向かった。
名探偵シャーロック・ホームズは短編「空家の冒険」の中で、「日本のパリツ」なる格闘術を使って悪人を倒し、生命の危機を脱したと友人のワトスンに語っている。
果して彼の用いた「日本のバリツ」とは何か?ミステリーを探るべく、僕は古書店街へと足を運んだ。
高田馬場駅で降り、早稲田通りをトコトコと歩いていくと、馬場目のあたりから早稲田大学正門に至るまで数キロの道のりは、右を向いても左を向いても古本屋さんだらけの古書店街になっている。
何か調べものをしようという時にこの一帯はうってつけである。
神田の古書店街より庶民的だし、少し足をのばせば辛美味いインド料理屋や、市川年代そのままのいなたいジャズ喫茶もある。
何より本を拾い読みしながらの散策は心がなごむ。
早稲田古書店街の散歩は目的地がハツキリ決まっているところもいい。
右に左に古書庖を巡りながら、早稲田大学のそばを目指す。
なぜ、「大学」ではなく、「大学のそば」を目指すのか?古書店街で何冊ものホームズ関連本を購入した。
河村幹夫、小林司、東山あかね等々…。
いわゆる「シャーロッキアン」の方々が記したホームズ研究本である。
という言葉も懐かしい。
「スター・トレック」のマニアを「トレッカー」そのミステリーについてのマニアを「シャーロッキアン」と呼ぶように、シャーロック・ホームズのマニア、研究家をシャーロッキアンと呼ぶのだそう。
本国英国のみならず、世界中にシャーロツキアンはいる。
日本では前述の方々が代表的人物である。
小林さんと東山さんはなんとご夫婦。
ホームズ研究書をたくさん出版している。
いわばシャーロッキアン版ヒデとロザンナ…いやこの場合は対恥ホームズ&ワトスンと呼ぶべきか。
どっちがホームズ役を取るかで夫婦ゲンカなどするのだろうか?ちなみに古い話だが一九四八年にはシャーロッキアンの団体、その名も「パリツ協会」が発足し、時の大臣や文豪などが参加している。
つてな情報も、古書店街をトコトコ歩きまわるうちに次々わかってくる。
目的のある散策は実に楽しい。
足が進む、進む。
肝心の「パリツ」についてもかなりのことがわかった。
後日、シャーロッキアンや古武術研究家の方々からお話を伺い、調べ中なのだけど、簡単に言えばこんなところだ。
「一八九九年、明治三十一年に、英国人のパートン・ライトなる人物が日本の護身術や柔術を、自分の名をもじって、「パーティツ」として英国の雑誌に紹介。
これをホームズに使用させる際に「パリツ」と誤って表記してしまった」こまかいことはいまだコナン・ドイルが、ということらしい。
日本の護身術に勝手に自分の名をつけちまうパートン・ライトといい、それをまた間違えた綴りで小説に使っちゃうコナン・ドイルといい、「パリツ」の謎の真相は、どこか聞が抜けていて楽しい。
一部は判明したとはいえ、「パリツ」に関する謎はまだまだ尽きない。
パートンは一体、日本のどの流派の術を紹介したのだろうか?パーティツは今も英国に存在するのか?ホームズがライへンバッハの滝で悪人相手に使用した技はいかなるものだったのか?古書底街のみならず、さまざまな場所へと「パリツ」を巡る旅はしばらく続きそうだ。
コナン・ドイルの小説で始まった我が読書の旅が、いろんな駅を経て、再びまたドイルの駅へと戻ってきた。
これから旅は、どちらの方面へと向かうのであろうか。
途中下車の合間にカレー南蛮を食べようと思う。
早稲田大学正門のそばに、うどん屋がある。
古書店街散策の最終目的地は大学のそばのうどん屋だったのである。
ほどよく疲れた体に甘辛いカレーうどんは美味い。
ある雑誌で、江戸川乱歩がこの庖によくカレーうどんを食べに来ていたとあった。
乱歩はいうなれば日本のコナン・ドイルである。
と同時に、我が読書の旅における二番目の駅でもある。
少年時代に僕がホームズものの次にはまった小説は、ポプラ社の江戸川乱歩シリーズであった。
読書の旅の始発駅長に思いを馳せながら、第二の駅長の好物を食べたというわけだ。
京都でライスチョコを食べ忘れたたくさんの映画を見た。
暇ができればホテホテと映画館へ出かけた。
「ブギーナイツ」「普通じゃない」「ブルースブラザース2000」「ザ・グリードー」などがよかった。
今年、ディカプリオの「タイタニック」も面白かったけど、どーもパーさんのホラ話につき合わされているような気がして笑ってしまった。
涙をぬぐう観客の中で思わず2、3度「ぷぷぷっ!」とやって、ヒンシュクを買ったものだ。
長いこと映画館通いを続けているうちにひねくれた見方が体にしみついちまったな。
高校時代は週に2、3回は名画座に通っていた。
昼メシを抜いて映画代をつくっていた。
これ、猛烈に腹が減るのだ。
すきっ腹で中野から池袋の文芸坐まで自転車をころがした夕方にはへラへラとめまいがした。
定食屋のガラスケースに入れられたとんかっ定食がキラキラと黄金色に輝いて見えたほどだ。
そういう時にはパン屋に飛び込みライスチョコをー本買うのだ。
ライスチョコはコーラ色をした包装紙にくるまれた10エンほどの駄菓子で、ライスと名乗っているものの正体の皆目わからぬ豆粒の入った板チョコだ。
この豆粒の歯ざわりがいい。
グッと噛めば「なによやめてーとかたくなにその侵入を拒むくせに、こちらが「わかったよ、ゴメン…」と半ばあきらめかけたまさにその刹那、くしゃあっ、とまるで人生の荒波を何もかもあまんじて受け入れた裸の少女のごとく、その身の切断を許すのだ。
後はもうなめようが味わおうが食べちゃおうがこちらの意のままだ。
このエロチックなチョコの値段は削円とかその程度のもので、貧乏学生の栄養補給にこれ以上のものはなかった。

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